お客様の課題
- 空調管理が特定の管理者に依存しており、現場作業者が自ら空調を操作できない状況だった。
- 空調の設定変更のたびに、現場管理者から中央監視室への依頼が必要で、設定変更までのリードタイムが長かった。
- 空調機器につながるダクトが縦横無尽に走っているため、中央監視室の担当者は設定変更時の影響範囲を配管図で確認する必要があった。
- 過剰な暖冷房が発生し、無駄なエネルギー消費につながっていた。
- 技術検証として別途開発されていた既存アプリは、ライセンス費用の負担に加え、操作性の柔軟性にも課題があった。
対応と結果
- 空調設定変更の依頼から実施、履歴管理までを Web と IoT で一体化したシステムを構築し、現場と中央監視室の間で発生していた連絡・確認の工数を削減。
- Web 管理画面から複数設備の設定をまとめて変更できる仕組みにより、作業時間を短縮。
- 変更履歴の記録とロールバック機能の実装により、設定変更の安全性を向上させ、属人的な運用を改善。
- IoT 基盤で空調設備の稼働状況やセンサーデータをリアルタイムに収集・蓄積し、過剰な暖冷房の抑制によるエネルギー利用の最適化に寄与。
- スクラッチ開発で AR モバイルアプリを構築し、現場から AR 上で空調設備の状態確認や設定変更、電源操作を行なえる仕組みを実現。
- 将来的な他社への展開を見据え、企業ごとのデータ分離とユーザー管理を備えたマルチテナント構成で基盤を整備。
トヨタ自動車株式会社様は、工場における空調管理の属人化解消とエネルギー利用の最適化を目指し、Web 管理画面・AR モバイルアプリ・IoT 基盤を連携させた空調設備管理システムの開発に取り組まれています。
本プロジェクトにて KDDIアイレットは、フルサーバーレス構成によるマルチテナント SaaS 基盤の設計・開発、AR モバイルアプリのスクラッチ開発、IoT デバイスと AWS の接続支援までを一貫して担当。従来3日間を要していた配置調整作業を約1時間に短縮するなど、業務効率化を実現しました。
空調操作が特定の管理者に集中。設定変更のリードタイムとエネルギーロスが課題に
トヨタ自動車株式会社様(以下、トヨタ自動車様)の工場では、空調の設定変更を行なう際、現場作業者がライン管理者を通じて中央監視室に依頼する必要がありました。空調機器本体から縦横に走るダクトの接続関係は複雑で、設定変更時の影響範囲を配管図で確認する作業も管理者に集中。中央監視室で対応すべきか現場で操作できるかといった判断も特定の担当者にしかわからない状況が生じていました。
このような属人的な運用体制のもと、設定変更までのリードタイムが長くなり、現場で暑さや寒さを感じても即座に対応できないケースが発生。結果として過剰な暖冷房状態が続き、無駄なエネルギー消費が課題となっていました。
これらの課題を解消するため、トヨタ自動車様は技術検証(PoC)としてアプリの開発に取り組まれていました。しかし、ライセンス費用の負担に加え、操作性の柔軟性に課題があり、実運用を見据えた本格的な活用には至っていませんでした。そこで、PoC の知見を踏まえたうえで、現場の実務に即したシステムをスクラッチで開発する方針へと移行。本プロジェクトにおいて、KDDIアイレットは Web 管理画面・AR モバイルアプリ・IoT 基盤を一体化した設備管理システムの設計・開発を支援いたしました。
フルサーバーレスのマルチテナント SaaS を構築。AR モバイルアプリの開発により現場からの直感的な空調操作を実現
今回のプロジェクトでは、空調設定変更の依頼から反映、履歴管理までを一体化するシステムを、AWS 上にフルサーバーレス構成で構築しました。本システムは、トヨタ自動車様自身の工場での活用に加え、将来的に他企業へサービスとして提供することも見据えており、マルチテナント SaaS として設計されています。企業単位でデータが分離され、ユーザー管理も独立して行なえる仕組みです。サーバーレス構成の採用により、将来的な設備増加や多拠点展開にも柔軟に対応できる基盤となっています。
Web 管理画面では、施設・建屋・フロア・エリアといった階層構造の登録、空調機やダクトの図面上への配置の一括管理が可能です。設定状況が異なる設備間の差分を確認しながら編集できる機能を備えており、さらに設定変更の履歴管理とロールバック機能も実装することで、運用の安全性を確保しています。
モバイルアプリはスクラッチ開発にて構築しています。AR 機能の実装にはクロスプラットフォーム対応の AR フレームワークを採用し、依存性注入の仕組みを導入。3D 空間上での UI 操作やデバイス連携など自由度の高い実装において、責務の分離を意識した設計で拡張性と保守性を両立しています。
工場内に設置された QR コードを読み取ると AR モードが起動し、ダクトや排気口に対応するパネルが空間上に表示されます。パネルから空調機の温度確認や電源操作が直接行なえる仕組みです。また、QR コード読取時に周囲の空調機・ダクト・AR マーカー情報を一度の API 呼び出しで取得し、同一エリア内での移動では追加通信なしで AR 表示ができる設計を採用。通信効率と操作性を両立しています。
また、アプリの開発では、トヨタ自動車様の厳格なセキュリティ要件を満たしながら、現場での使いやすさを損なわない UI/UX の実現にも注力しました。スクラム開発を通じて現場からのフィードバックを継続的に反映し、セキュリティと利便性を両立したアプリケーションへとブラッシュアップしています。
AR 空間上でのパネル位置の微調整機能は、スクラム開発のプロセスを通じて追加されたものです。当初、空調機やパネルの配置調整は Web 管理画面からのみ対応しており、現場での位置合わせに3日間を要していました。開発チームがユースケースをもとに提案し、3D 空間操作の自由度を活かしてハンドルドラッグによる直感的な配置調整機能を実装。この結果、従来 Web からの調整で3日間かかっていた作業を約1時間に短縮することができています。
さらに、距離に応じた動的な拡大補正で遠方のパネルも視認しやすくし、調整モードでは距離補正をオフにすることで正確な遠近感のもとでの微調整を可能にしました。さらに、手前のパネルを距離に応じて非表示にする距離フィルター機能により、多層に重なったパネルの中から目的のパネルを確実に選択・調整できる環境を実現しています。
IoT 基盤には AWS IoT Core を採用。空調機の制御盤に設置された制御機器を通じて操作指令を送信する仕組みです。複数の操作が同時に発生した際も整合性を保てるよう、Amazon SQS を活用して操作指令を順次処理する制御機構を導入しています。また、リモコンによる手動操作とアプリ操作の両方に対応するため、空調機の最新状態を AWS IoT Core 経由で同期。アプリ側は常に最新の設備状態を参照できる設計としています。
デバイスや入力環境への対応も特徴の一つです。Web 管理画面は iPad やトラックパッド、マウスなど、あらゆる操作環境でスムーズに編集できるよう設計されており、配置編集ではドラッグ操作のたびに通信を発生させず、ローカル上で滑らかに調整した後に一括更新する方式を採用。階層が深い画面でもユーザーが現在地と遷移先を把握しやすい導線設計を意識しています。
本システムの構築により、現場作業者がアプリを通じて自律的に空調操作を行なえる環境が整いました。設定変更のリードタイムが短縮され、過剰な暖冷房の抑制によるエネルギー利用の最適化に寄与しています。今後はトヨタ自動車様自身の工場への本格展開に加え、他企業への提供も予定されています。
KDDIアイレットでは、AR モバイルアプリの開発や、AWS 上でのフルサーバーレス構成によるシステム構築まで幅広く対応しています。工場の設備管理や IoT 活用による現場 DX を検討されている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
(使用プロダクト)
- ・AWS
- Amazon CloudFront
- Amazon S3
- Amazon Cognito
- Amazon API Gateway
- AWS WAF
- AWS Lambda
- AWS Step Functions
- Amazon EventBridge Scheduler
- AWS IoT Core
- Amazon SQS
- Amazon Kinesis Data Firehose
- Amazon Aurora Serverless v2 for PostgreSQL
- Amazon CloudWatch
- AWS Secrets Manager
- AWS CDK(TypeScript)
- ・その他
- Firebase Crashlytics
- Firebase Analytics
Credit
クライアントトヨタ自動車株式会社