お客様の課題
- 規制緩和を背景に、広告審査案件の内容が複雑化・多様化していた。
- デジタルサイネージの普及とインプレッション販売の拡大により、審査対象となる広告件数が増加していた。
- 担当者の人事異動やジョブローテーションにより知見が組織内で共有されにくくなるリスクも顕在化していた。
- 属人化が障壁となり、審査のスピードと一貫した審査回答の両立が困難な状況だった。
対応と結果
- Gemini による自動審査と人による最終判断を組み合わせにより、一貫性・スピード・正確性を両立。
- ナレッジの蓄積と可視化により属人化を解消。社員の異動等にも左右されず、判断基準を維持できる体制を構築。
- 定型的な審査業務の自動化により1件あたりの対応時間を1/2にすることを掲げ、余った時間でクリエイティブや戦略立案といった付加価値の高い業務に注力。
株式会社メトロアドエージェンシー様では、近年の規制緩和やデジタル技術の進展に伴う広告審査業務の高度化・複雑化を背景に、属人化の解消と一貫性のある審査体制の構築が課題となっていました。
そこでアイレットは Google Cloud の生成 AI を活用した広告審査システムを構築。画像や動画といったマルチモーダルな広告素材を対象に、複雑な審査規定に基づいた AI による自動審査を実施し、自動審査の結果を参考に、最終判断は人が行なうハイブリッド型の仕組みを整備しました。
複雑化する広告審査と属人化の解消。生成 AI による「組織的な知見の共有」を目指した挑戦
株式会社メトロアドエージェンシー様(以下、メトロアドエージェンシー様)は、東京メトログループの総合広告会社として交通広告媒体の管理・販売を手掛けています。同社の広告審査業務では、規制緩和を背景とした審査案件の多様化に加え、インプレッション販売の拡大に伴う審査件数の増加が課題となっていました。さらに、人事異動やジョブローテーションにより、審査ノウハウが特定の担当者に依存する「属人化」や、人事異動やジョブローテーションによって知見が組織内で共有されにくくなるリスクも顕在化していました。
こうした課題に対し、アイレットは Google Cloud の生成 AI モデル Gemini を活用したハイブリッド審査の仕組みを提案しました。具体的には広告主審査、商材審査、意匠審査の3種類の審査を Gemini が実行し、その結果をもとに審査担当者が最終的な合否を判断するフローを構築。AI だけに依存せず、人が最終確認を行なうことで、スピードと一貫性を確保しながら、柔軟で責任ある判断を両立させる体制を実現しました。
また、これまで担当者の経験に依存していた審査基準を可視化し、担当者のナレッジも資産化。システム上で管理できる仕組みを導入しました。 Gemini が審査基準に適したプロンプトを作成可能。同画面にてテストデータを用いて、実際に Gemini が審査する際のテスト実行が可能。担当者が変わっても同じ基準で審査を継続できる体制を整えています。
Gemini と Cloud Run を核とした高度な並列処理。パフォーマンスとコストを両立する技術設計
本システムのバックエンドには Python の FastAPI フレームワークを採用し、AI 審査の実行基盤として Google Cloud の コンテナ実行基盤である Cloud Run を活用しています。技術的な最大の焦点は、シビアな性能要件の実現にありました。広告審査規定には数百に及ぶチェック項目が存在し、広告主審査・商材審査・意匠審査の3種類それぞれに対して10分以内、合計30分以内という厳しい要件が求められていました。
これを実現するため、非同期かつ大規模な並列処理を行なう「キューイング」アーキテクチャを構築。LLM の特性としてインプットトークンの上限に近づくと回答精度が低下する傾向に対応するため、条文単位で審査基準を管理・実行する設計を採用。数百単位のリクエストを同時に処理する過程では、一時的なエラーに対処するための指数関数バックオフによるエラーハンドリングも実装しています。その結果、性能テスト段階にて数百規模の Gemini へのリクエストにおいても平均5分程度、全体でも10〜15分で審査を完了し、求められていた性能要件を大幅に上回る処理速度を実現しました。
コスト面では、Gemini のコンテキストキャッシュ機能を活用してコスト最適化を図りました。広告審査では、1つの画像や動画(意匠ファイル)に対して複数の審査リクエストが発生するため、これらをキャッシュすることで1リクエストあたりのトークン消費量と費用を削減しています。また、Google 検索グラウンディングとの連携により、審査担当者が判断する際に鮮度の高い情報提供を実現しました。
さらに、回答精度の継続的な改善を支えるため、LLMOps ツールである Langfuse を導入。審査基準ごとの AI 審査実行時間や回答内容、トークン消費量を詳細にトレースできる体制を整えました。
「現場で使い続けられるシステム」へのこだわり。 UX デザインと最新技術への追従が生んだ成果
本システムでは、現場の担当者が継続的に使用できるよう、UX の向上にも注力しています。広告主審査の現場では、申請を行なう広告代理店と審査担当者の間の円滑なコミュニケーションが欠かせません。そのため、システム内にはリロード不要でリアルタイムに内容が反映されるメッセージ機能やシステム内で確認可能なユーザー通知機能、メール通知機能を実装しました。
また、システム内の審査実施画面にはフィードバック機能も実装されており、AI の回答に問題があった際には担当者が即座にフィードバックを入力し、プロンプトの改善に活用できる仕組みとなっています。
さらに、過去の審査案件を検索する機能についても利便性を高める工夫を施しています。従来のキーワード検索では指定したキーワードに一致する案件名しか検索できませんでしたが、 Cloud SQL 上の PostgreSQL で pgvector の拡張機能を活用したベクトル検索を導入。これにより検索ワードと同じ意味を持つ案件名を検索することが可能となり、ユーザビリティが大幅に向上しました。
このセマンティック検索により、「たばこ」と検索しても同じ意味を持つ「煙草」や「IQOS」などを含む案件名も検索結果に表示されます。
技術的な観点での UI/UX の考慮として、ブラウザ上で大容量の画像や動画ファイルを快適にプレビューできるよう、 Cloud CDN を用いた画像や動画のキャッシュ方式や、 Chrome のメモリ制限を考慮した技術的な調整を行なうなど、細部にわたる工夫を施しています。
本プロジェクトは生成 AI の技術革新が激しい時期に進められたため、 Gemini のバージョンアップ(1.0、1.5、2.0、2.5へ)や、 Google 検索グラウンディング、コンテキストキャッシュ機能といった新機能のリリースにも柔軟に対応しました。これらの機能や特性を既存の要件を考慮しつつ、どのようにシステムへ組み込むかを検討しながら開発を進めています。
交通広告は公共空間におけるメディアであり、その信頼性を担保する『審査』はメトロアドエージェンシー様の根幹です。今回、Gemini を活用したハイブリッド審査を構築したことで、審査のスピードアップはもちろん、蓄積された知見を組織の資産として継承できる仕組みが整いました。システム化したことにより担当者はクリエイティブの検証や新しい広告戦略の立案といった、より付加価値の高い業務にリソースを集中できるよう後押ししています。組織的な知見の蓄積、審査の一貫性向上、そして業務効率化。メトロアドエージェンシー様の広告審査システムは、生成 AI がビジネスの競争力を高めることを示す先進的な事例となりました。
属人化した業務のシステム化や、組織的なナレッジの蓄積・活用は、多くの企業に共通する課題です。アイレットでは、 Google Cloud の生成 AI を活用した業務支援システムの構築から、 LLMOps による継続的な精度改善まで、一貫した支援を行なっています。業務の標準化や AI 導入をご検討の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
(使用プロダクト)
- ・Google Cloud
- Vertex AI
- Gemini 2.5 Pro / Flash
- Grounding with Google Search
- Cloud Run
- Cloud Logging
- Cloud Monitoring
- Cloud SQL
- Cloud Tasks
- Cloud Scheduler
- Cloud Storage
- Cloud DNS
- Cloud CDN
- Cloud Load Balancing
- Cloud Armor
- Vertex AI
- ・その他ツール
- Langfuse
- FastAPI
- Python
- React
- Next.js
- TypeScript
- Snyk
- Firebase Realtime Database
- SendGrid
Credit
クライアント株式会社メトロアドエージェンシー